雅峰生の手紙

私が妻や友人に宛てて書いた郵便から

手紙の過去分は順次当サイトから削除して『断章』としてまとめ、
『小説家になろう』に掲載後、 Kindle で電子書籍化しています

手紙

6967

自分を支えるものを自分で創って下さい。でも創れないのです。自分を支える事が出来るものは自分では創れません。それでも創ろうとして下さい。それを創る、創ろうとする過程でないと、手に入らないものがあるからです。それが自分を支えるものです。自分を…

6966

汚い人間は、何処(どこ)にでも居るものです。職場にも、学校にも、町内にも、更には旅先にまで居ます。旅先であるならば行きずりの私がその飲み物に毒物を入れてあげる事も不可能ではないと思いますが、遉(さすが)にしょっちゅうそれをしていればそのう…

6965

表情というものはその人の顔に刻み込まれます。もう永らく感謝という感情を忘れてしまった、不満が渦巻いている、そうなって久しい人の顔がそれです。そうなると何かで嬉しい事があっても傍(はた)から見ていて喜んでいる風には見えません。本人としては表…

6964

三日坊主の人は同じ事を十年も続けている人を見て、『あの人は偉い、到底あんな真似は出来ない』と思うかも知れません。しかし当のその同じ事を十年も続けている人にしてみれば、「自分はもう他にはやりようが無い、これしか無い。他に道なんて見えない」と…

6963

お金や時間の都合で何処(どこ)にも行けない時には想像を膨らませて下さい。まだ見ぬ土地、人、光景、そして思いもしなかった新事実、そういったものに溺れたら良いと思います。人間の心が深くなるのは斯(こ)ういう時なのですから。日常の雑用に追われ、…

6962

愚か者は大抵責任を負おうとはしません。絶対に逃れる事の出来ない責任に限って『潔く責任を負う』姿勢を示しますが、逃れられる可能性が仄(ほの)見えている時には見苦しく必死に逃れようとします。別にまだ責任だ何だと誰からも言われていないのに、そん…

6896

妬(ねた)みというものは怖いものですが、かといって一切誰の妬みも買わぬ様になどという実現不可能であるのみならず極めて不自然不健康な指針を立てる必要などありません。そんな事を本気で遵守しようとしたら自分の生活が構築展開出来なくなって仕舞いま…

6875

少し昔、そうですね、昭和三十年代から四十年代前半の頃、庶民の多くが本当にまだ貧しかった頃の事です。この頃の漫画や映画では生きていく事の苦しさ、何とかして毎日生きていく事の困難さがよく描かれていました。登場人物の服装も食事も極端に粗末でした…

6839

誰からも顧みられる事のない、棄てられた何か。何でも可(い)いです、そういう何ものか。私は子供の頃からそういうものに惹かれました。そしてその傍に近寄って行って、出来れば触り、そしてその近くでその棄てられたものと話をするのです。私の世界は実は…

6827

今やその中で一軒二軒しか店を開けていない古い暗い市場で私は御菓子を買います。その開いている店のうちの一軒が御菓子屋さんなのです。私は一週間分の御菓子を其処(そこ)で買います。既に習慣になりました。愛想の良いお爺さんの店長さんがいつも笑顔で…

6824

腹を抱えて笑うのも良いでしょう。しかし私は深く想う事の方を勧めます。腹の底から笑うのは気持ちの良いものですが、それは『感情』です。本来が長く続くものではあり得ないからです。自分の中に深く沈殿し、堆積し、軈(やが)て何らかの形になり、それが…

6662-黒松内

遠い遠い黒松内。三十八年前も訪ねる事が出来なかった黒松内。四時間近い滞在時間はあっという間に過ぎました。多分寿都鉄道時代のままの雑草だらけのプラットフォームや錆々(さびさび)の線路と、いっぱいお話したよ。つらかったけど、嬉しかったよ。 二人…

6660-黒松内

2 汽車が来るのを待つ。他に誰も居ない、駅員すら居ない待合室で、ただ虫の声を聴きながら待つ。一時間でも二時間でも、何時間でも待つ。この駅でなら待てる。 どうしようもない悲しさがある。今からではどうしようもないからだ。 救い難い苦しい後悔がある…

5760

何気無い一瞬に、非常に魅力的なシーンがあります。如何なる要素が加わっているならばその魅力が具わるのかは説明出来ません。しかし其処(そこ)にその魅力が在る、厳然と在る事だけは、疑い様がありません。感じる、と謂うよりも、判然(はっきり)と見え…

5746-備後落合

山の中の淋しい駅だ。昔この駅には、毎日毎時間、汽車が到着してはまた発車していった。駅員もお客さんも沢山居た。駅前には二つの旅館があった。人の流れがあったのだ。しかし今は必要とされなくなって、日に十本かそこらの普通列車がやって来るだけになっ…

5740-備後落合

前夜、よく眠った筈なのに、昼間の行程が眠い。矢張旅先だからか。特に長く歩いている訳ではない。しかし矢張心が緊張し、昂(たかぶ)っているからか。列車に乗ると、復路必ず眠ってしまう。クロスシートだと嬉しいのだが、ロングシートなので眠りにくい。…

5738-備後落合

収支が悪い鉄道の線区が発表になり、廃止前にと、遂に家族で一泊旅行に出掛けました。奥さん子供を連れて、一日中列車に揺られる旅です。新幹線と特急列車には別段何かの面白味があった訳ではありませんが、その先の支線がもう言語に絶する魅力でした。現役…

5684-梅小路

御前は時々、話しながら自分で泣く様になったな。お父ちゃんもいずれは死ぬ、お空に帰るという事を知って、それで泣く様になったな。御前が生まれる前は御前は透明人間で存在していて、お父ちゃんの若い頃の事も見ていたと言うね。その、お父ちゃんがまだ若…