手紙
さもあなたの事を心配しているかの様な口ぶりだけれども、実は別途具体的な目的があってその達成が一番にして唯一の目当て。そういう話が世の中には多々ありますね。私などが喚起しなくてもそういう事への警戒は十分おもちであるとは思いますが。でも不思議…
現在の状況の自分をそのまま、まるままそっくり助けてほしいと願っても、極端な話賽銭を奮発して御幣を振って祈っても通常助けはやって来ません。稀にやって来る事も無いではないですが、そんなものを期待するよりは馬でお金をつくる事の方がまだ可能性があ…
愛する人を瞼に思い描きましょう。心に想いましょう。あなたが外科手術をする医師であるとかその看護士であるとか、或いは運転機械操作に従事するミスの許されない仕事に就いていてその仕事中でないのならば。大抵の事をしているよりもその事の方が値打があ…
若しも私自身、今日と十日後で一番欲しいものが変わって仕舞っていたら私は自分という人間を馬鹿だと見做すでしょう。別に馬鹿だと見做したいという欲求が私の中に在る訳ではないのですが、それでも自己に対する信頼と謂うか自ら恃(たの)む心持ちと謂うか…
誰だって生活に余裕が欲しいです。私だって月に一万円の余分があれば随分気持ちが楽だと思います。現状では正に『気を抜いたら終わり』ですから。しかし考えてみればこれも贅沢な話です。私は気を抜いたら終わりという状況を苦にしていますが、私の暮らして…
真実に私を慰めるものとは必ず同時に私に課題を与えるものです。使命を告げるものです。実はそれこそが慰めの本体だからです。何もしなくて可(い)い、ただ其処(そこ)にそうして在るだけで一切は上手く運ぶだろうと、そうは言わないのです。私が動いて何…
誰からも顧みられる事のない、棄てられた何か。何でも可(い)いです、そういう何ものか。私は子供の頃からそういうものに惹かれました。そしてその傍に近寄って行って、出来れば触り、そしてその近くでその棄てられたものと話をするのです。私の世界は実は…
今やその中で一軒二軒しか店を開けていない古い暗い市場で私は御菓子を買います。その開いている店のうちの一軒が御菓子屋さんなのです。私は一週間分の御菓子を其処(そこ)で買います。既に習慣になりました。愛想の良いお爺さんの店長さんがいつも笑顔で…
腹を抱えて笑うのも良いでしょう。しかし私は深く想う事の方を勧めます。腹の底から笑うのは気持ちの良いものですが、それは『感情』です。本来が長く続くものではあり得ないからです。自分の中に深く沈殿し、堆積し、軈(やが)て何らかの形になり、それが…
遠い遠い黒松内。三十八年前も訪ねる事が出来なかった黒松内。四時間近い滞在時間はあっという間に過ぎました。多分寿都鉄道時代のままの雑草だらけのプラットフォームや錆々(さびさび)の線路と、いっぱいお話したよ。つらかったけど、嬉しかったよ。 二人…
2 汽車が来るのを待つ。他に誰も居ない、駅員すら居ない待合室で、ただ虫の声を聴きながら待つ。一時間でも二時間でも、何時間でも待つ。この駅でなら待てる。 どうしようもない悲しさがある。今からではどうしようもないからだ。 救い難い苦しい後悔がある…
何気無い一瞬に、非常に魅力的なシーンがあります。如何なる要素が加わっているならばその魅力が具わるのかは説明出来ません。しかし其処(そこ)にその魅力が在る、厳然と在る事だけは、疑い様がありません。感じる、と謂うよりも、判然(はっきり)と見え…
山の中の淋しい駅だ。昔この駅には、毎日毎時間、汽車が到着してはまた発車していった。駅員もお客さんも沢山居た。駅前には二つの旅館があった。人の流れがあったのだ。しかし今は必要とされなくなって、日に十本かそこらの普通列車がやって来るだけになっ…
前夜、よく眠った筈なのに、昼間の行程が眠い。矢張旅先だからか。特に長く歩いている訳ではない。しかし矢張心が緊張し、昂(たかぶ)っているからか。列車に乗ると、復路必ず眠ってしまう。クロスシートだと嬉しいのだが、ロングシートなので眠りにくい。…
収支が悪い鉄道の線区が発表になり、廃止前にと、遂に家族で一泊旅行に出掛けました。奥さん子供を連れて、一日中列車に揺られる旅です。新幹線と特急列車には別段何かの面白味があった訳ではありませんが、その先の支線がもう言語に絶する魅力でした。現役…
御前は時々、話しながら自分で泣く様になったな。お父ちゃんもいずれは死ぬ、お空に帰るという事を知って、それで泣く様になったな。御前が生まれる前は御前は透明人間で存在していて、お父ちゃんの若い頃の事も見ていたと言うね。その、お父ちゃんがまだ若…